グランピング施設「温楽ノ森」のトータルプロデュース①コンセプト&ロゴ設計編

プロジェクトへのジョイン

「『乙女の湯』を復活させたいんです。」

株式会社キリンジの代表である天川さんに声をかけていただいたのは2020年の1月。
まさに年の始まりのことでした。

もともと地元の憩いの場として運営されてきた兵庫県出石の温浴施設「乙女の湯」ですが、経営状態の問題で閉鎖を余儀なくされていました。
その施設復活のために、天川さんが手を挙げ、事業継承をすることになったのです。

天川さんに京都駅の地下カフェでお会いし、そのお話を聞くなかで、Office ioとしてもクリエイティブの面から少しでもお手伝いできればということでプロジェクトに参加させていただくことになりました。

さっそく1月の末には現地視察へ。
乙女の湯までは車を使えばアクセスは非常に便利でした。

のどかな自然、川と山にかこまれた閑静なエリアながら、そこから少し足を伸ばせば今も残る城下町の観光エリアがあり、関西方面から1〜2泊で滞在を楽しむには最適な場所でした。

天川さんはここに、あらたにグランピング施設の併設を企画していました。

施設名をデザインする

このプロジェクトに参加して、Office ioがまず一番に行ったのはグランピング施設名称のデザインからでした。

実際に現地を見て、そのポテンシャルと理想イメージを思い描き、地元特産のお蕎麦をすすりながら天川さんと1〜2時間程度のヒアリング・打ち合わせを行いました。

家族みんなが楽しめる施設にしたい。

天川さんの熱い思いをしっかりと受け取り、まずは名称提案の準備を始めました。

初期に提案したアイディアは3つです。

どれもこの施設にある本質的な魅力を引き上げ、それを核として展開したアイディアでした。
もちろん、ioとしてはどの案が採択されても遜色ないコンセプトを設計し、ビジュアル展開までのイメージが出来上がっていました。

最初に天川さんにプレゼンをした反応は上々。だったのですが…なぜか最後の決め手に欠けました。
ひとまず方向性を修正し、提案をし直し、ある程度それなりの案にまでまとまりかけていたのですが、そこでまた何度か停滞がおきます。

「何かが違う…」

そんな違和感とも言うべき、うすーい幕のような居心地の悪さ。

もちろん、それを無視してそのまま進めることもできました。

ですが、最後の最後、施設名称決定の締め切り前日に、あえてボクから天川さんに直接電話を入れ、仕切り直しをお願いしました。
このまま進めててもどこかで不協和音が生まれる。
最悪の場合はプロジェクトが暗礁に乗り上げる可能性もある。
ボクの直感的な判断です。

このタイミングでこの提案に対し、何と言うかなぁ…と少々不安もあったのですが、電話越しの天川さんは二つ返事でこれを快諾してくださいました。

当然、施設オープンに向けたスピード感は大切にしたいと思うのが経営者です。
ですが、そこではなく、あくまで「核」の設計を大事にして、瞬時にその経営判断が出来る天川さんの本質思考に、ボクは電話越しで感銘を受けていました。

ああ、お電話してよかった。
心からそう思ったのを今でも覚えています。
この施設は、もっともっと良くなる。
絶対に成功させる。
そう誓って電話を切りました。

そうと決まれば善は急げです。
ボクは速攻で新幹線を手配し、キリンジさんのオフィスがある大阪へと向かいました。
京都からhanaさんも合流し、ioとして二度目のヒアリングに伺います。

ヒアリングからやり直す

大阪に向かう新幹線の中では、すでにボクの中では反省点が明確になっていました。

「急ぎすぎた」

もはやこれだけです。

と言うのも、1月の後半に現地視察を行い、3月末のオープンにクリエイティブと、そこから派生するウェブサイトやグッズなどを間に合わせるためには、2月の中旬には名称、ロゴは確定していないとスケジュール的にアウトだったのです。

このスケジュールがボクの焦りにつながり、判断を鈍らせました。
現地視察での話の盛り上がりもあって、提案としては十分な手応えを感じていたにも関わらず、何かがずれていたわけです。

そこで、そのズレを探るため、直接天川さんに時間をいただき、二度目のヒアリングを行うことにしたのです。
そして今度はホワイトボードを使いながら、その場でどんどん思考を言語化していきました。

2回目のヒアリングでは、まず、ターゲットの分析からやり直しました。
初期イメージの「家族連れ」はぶれていません。
でも、そこからさらに解像度を上げていきます。

まず、ペルソナとなる家族を設計。
年齢、家族構成、趣味思考を明確にしたなかで、この家族の中でのターゲットプライオリティを決めていきます。

この話をしていくなかで、やはり詰めきれていなかったターゲットイメージをかなり明確に言語化することができました。
蕎麦屋の一時間ちょっとの話では捉えきれていなかった部分があったのです。
(正直、蕎麦屋でここまでやってなかったのがボクの最大のミスでした。とはいえ、やはり蕎麦屋では限界があるよなぁ…とも思いつつ。今後の反省材料とさせてもらった部分です)

このターゲットイメージのわずかなズレがノイズになり、明確な本質を捉えているようで捉えきれない原因になっていたことが判明したわけです。

ターゲットプライオリティが明確になったので、次はそのターゲットに提供できる「乙女の湯」の本質的な価値(バリュー)を再設計していきました。

当初から出ていたイメージとしては「癒し」や「温泉」、「ちょっと贅沢な日常」というようなキーワードが並んでいます。
でも、あと一歩、「この場所でしか提供できない価値」にまで踏み込もうと話を続けます。

最高に難しく、また最高に楽しい時間です。

天川さんの言葉から生まれた施設名称

天川さんへのヒアリングを行いつつ、hanaさんとボクとで細かなアイディア出し、提案を打ち続けることで少しずつ言語化を進めていきます。
その中で、天川さんの言葉を突き詰めていくと、一つのキーワードに行き着くことが見えてきました。

そのキーワードとは「楽」でした。

「楽しい場所」であること。それと同時に、ここに来たら子供たちが自由に遊ぶことで母親が「楽ができる場所」になること。
これこそが天川さんの求める、このグランピング施設で提供可能な、本質的な価値の部分だったのです。

ここまで本質が見えたら、あとは要素の掛け算を考えます。

ボクが「では、仮にもう一つ何かキーワードを一文字足すとすれば・・・」

言いながらボクの頭には一つの文字が浮んでいました。
そして、それは同時にその場にいた天川さんとhanaさんも同様でした。

「温!!」

天川さんの言葉と同時に、ボクはホワイトボードに書き出していました。

そう、温泉があるグランピング施設であり、地元の人たちも集まる、心温かな場所であること。
この事実こそが、必要不可欠な要素だったのです。

そして、この二つを組み合わせて「温楽」という造語にしました。
自然豊かな場所であることを示唆するために「森」をつけくわえます。

こうして、グランピング施設「温楽ノ森」の名称は誕生しました。

ここまで固まれば、あとはここまでの話し合いで出ていたアイディアや考え、イメージをストーリーにし、シンプルなコンセプトとして文字に起こしていくだけです。

コンセプトの決定

昼間は大人がくつろぎ、こどもが全力で遊ぶ。
子供が遊び疲れて寝静まった夜は、大人たちがお酒で乾杯。

そのメリハリ、静と動を音楽の音符と休符に置き換えて言語化していきました。
何度か修正、調整を加えた最終確定のコンセプトがこちらです。

Concept:音符と休符。森と奏でる、家族のリズム。

解説(一部省略)
このグランピング施設では、子供達は自由に遊び、父親は子供と一緒に汗だくになって遊び、BBQでは張り切って準備をしてくれる。
そうなれば、いつもは母親が当たり前のように担当している「家事と育児」が、いつのまにか 遊びに変わることになる。
父親と子供達の光景を微笑ましく見つめながら、当たり前だけどちょっと特別な日常を母親も一緒になって満喫できる場所だ。

「音符と休符」は、そんな父親と子供達の楽しくて元気な姿と、母親がホッと一息ついて家族を温かく見つめる様を表現している。
楽しく遊べるコンテンツがたくさん集まれば、父親と子供たちはいろんな場所で楽しめる。
それはまるでイロトリドリの音符があちらこちらで音を鳴らしているかのようだ。

そのイロトリドリの音符の音色があるからこそ、母親は日常を忘れてゆっくりくつろぐ余白が持てる。母親が感じるこの場所でのその余白こそが、この「温楽ノ森」に欠かせない休符になる。

そして、この「音符と休符」が揃うことで、この森にしかない「イロトリドリのリズム」が生まれる。
そう、この森は、音符だけでは成り立たない。
実は、この森の本当の主役は「休符」なのだ。

音符と休符がそれぞれに楽しみ、くつろぎ、結果としてハーモニーとなり、この「温楽 の森」にしかない「イロトリドリのリズム」を生み出す、そんな光景をイメージしている。

本来、このコンセプトの解説文面は表に出ることはありません。
あくまで温楽ノ森のスタッフ、関係者のためのステートメントです。

ですが、あえて長文でしっかりと書き込んだのも天川さんの「ぶれない本質」を大切にする経営判断でした。

今回のヒアリングは、一度振り出しに戻ったようでしたが、実は本質をブレないものにするためには必要なことでした。
その時はもちろん時間がかかるけど、結果としてこの先の展開を倍速にしてくれるからです。

この本質、コンセプトがあるからこそ、ロゴに落とし込んだときのブレが無くなります。

ロゴをデザインする

Office io では、ロゴをデザインする前に必ずコンセプトを明確に言語化します。
これはボクが「コンセプトのないデザインはただの落書き」という信念があるからです。

そして、デザイナーであるhanaさんも、このコンセプトが自分のなかにしっかりと浸透していないとロゴ造形のアイディアがなかなか出せません。
なのでioでは必然的にコンセプトを重視する制作スタイルになるわけです。

今回の温楽ノ森のコンセプトについては、前回の設計がベースです。
その上で、どうビジュアル造形をしていくかを大切にして制作を進めました。

まず、大事なポイントとして「楽しそう」であること。
ここは外せません。
なのでioとしては珍しく、少し色を多く使う構想にしました。
コンセプトにある「イロトリドリ」の部分を端的に表現したかったからです。

その上で、何かしら象徴的なモチーフを用意することにしました。
キャンプ場であり、コンセプトを表現し、かつ可愛いらしく、女性に好まれるクリエイティブ…このあたりをいろいろ試行錯誤する中で、ioとしてはロゴ提案を2案にまで絞り込みます。

一つは森をシンプルにビジュアライズした「木」のモチーフ案。
そしてもう一つがキャンプ場の1日を自然の造形で表現した「日々」のモチーフ案の二つです。

A案

シンボル

B案

シンボル

ここで運営企業の代表である天川さんに提案。
A、B案、どちらが良いか、話し合いました。

ですが、残念ながら(笑)この案件をディレクションしているボクも、この経営者である天川さんも本来ターゲットとなるべき「2−30代の女性でママさん」ではありません。
ボクらの判断で良いとされるデザインが左右されることは本位ではない。

そこで、ツイッターでのアンケートを取るという手法を取り入れました。

戦略的SNSコミュニケーション

普通であれば、クライアントさんとの協議で方向性を決めるロゴデザインですが、あえてオープンにしていろんな人の意見、感想を求めるというやり方は新しい試みだったと思っています。

もちろん、これを行うにはそれなりの条件があります。

まず、クリエイティブ側に確固たる信念があり、外野の意見に左右されたり、日和ったりしない軸があること。
そしてもう一つが、経営者と直にやりとりができ、感想や知見、感覚をダイレクトにシェアできる関係性と状況が構築されていること。

少なくとも、この二つが揺るぎない状態にできない限り、外野の意見はただのノイズになってしまいます。
ただ人の意見を聞き、取り入れたら良いというわけではありません。

この感覚が揺るぎないからこそ、例えばすごくシンプルに、ボクから天川さんに「それはデザインとしてやめた方がいいです」と伝えたこともあったりしました。

天川さんのボクらへのクリエイティブに対する信頼と、天川さんの経営判断に対してのボクらの信頼が少しずつうまく噛み合ってきたからこそのやり取りではないかと思います。

そういう意味で、この関係性とシステムが構築できた部分では、「温楽ノ森のプロジェクト」は小さいながらも「デザイン経営」のような形で進められたモデルケースの一つになったのではないかと思っています。

温楽ノ森のデザイン経営についてはまたこのプロジェクトが一段落したところであらためて詳しく語れたらなと思ってます。
ご期待ください。

さて、少し話がずれました。

このアンケートの結果、最終的にはA案が採用されました。

中には「二つの案を混ぜたら良い」という意見もありました。
これは想定の範囲内です。

良さそうな二つを見ると、つい人はそれを混ぜたくなります。
ですが、デザインとはその造形に到るまで、ありとあらゆることを考え設計しているわけです。
それが文脈と呼ばれるものだったりします。
やはり全てがトータル設計されたクリエイティブが揺るぎなく、またブレないわけです。
残念ですが、コンセプトもデザインも「混ぜるなキケン」ですね。

ちなみに、もし混ぜるなら、アイディアの時点からやるべきです。
ゼロベースでデザインやクリエイティブを設計するなら問題はありません。
逆に言えば、そうでないと揺るぎないクリエイティブは生み出すことができないわけですね。

ちなみに、ボクらがどちらの案でも、こだわったのは「グッズ化」までを見越したオブジェクトの展開イメージです。
これがあることで、この先のクリエイティブがすべて統一イメージで制作可能になるわけです。

A案グッズ展開

B案グッズ展開

最終的に選ばれたロゴはA案。
さて、続いてはこちらのロゴをベースに、現地のプロダクトを含めたトータルクリエイティブ・ディレクションを行います。

ぜひ、そちらもお楽しみに。