今回ご依頼をいただいたのは株式会社インプレシャスの松尾さま(@chiematsuo0318)でした。ご依頼内容は、まず自社ロゴのデザインをして欲しいということ。また、そのロゴを使用した名刺のデザインの2点です。今回は、この依頼をOffice io としてどのようにコンセプト設計し、デザイン提案にまで展開したのかを可能な限り丁寧に解説できればと思います。
ヒアリングで汲み上げる確かな想い
まずはロゴと名刺を制作するにあたり、松尾さんには時間をいただいてヒアリングをさせていただきました。Office io のヒアリングスタイルは、もしかしたらちょっと独特かも知れません。まず、ヒアリングシートは使いません。最初から何を聞くか、という部分をほとんどガチガチに固めていかないのです。それは、ひとつにはヒアリングシート化してしまうと、その余白を埋めることに集中してしまい、本当に聞くべきことや、クライアントさんの温度感にまで注目できない可能性があるから。
もう一つは、直感的にそのクライアントさんの本質に飛び込むには、事前準備した予定調和が邪魔になるからです。また、Office ioでは、ヒアリングにはCEOであり、デザイナーであるhanaさんも同席し、二人で進めるようにしています。ロゴをふくめたビジュアル造形をするときに、その場で聞いたリアルな話からインスピレーションを得てデザインに落とし込むためです。ここがあるかないかで、その後の制作精度が大きく変わる、重要な部分です。
さて、今回のクライアントさんである株式会社インプレシャスの松尾さまは、「婚活コンサルタント」として、30~40代の女性を中心に数多くの女性の恋愛アドバイスと恋愛サポートを行っています。松尾さんのアドバイスを受けると、一年以内に結される方が非常に多く、またこの10年で離婚報告は0件という素晴らしい実績をお持ちでした。なぜそこまで結果を出せるのか?という部分が、実は今回のブランディングの核となっていきます。まず、松尾さんがコンサルで大事にされていた提案要素として
・背伸びをしない
・本来の自分に出会う
というものがあります。決して「結婚」をゴールと捉えず、あくまで「幸せに生きる」ためのステップであり、そのためには、まずは「本当の自分」に出会うための準備をしっかりすることから始めるという部分を本当に大切にされていました。
そこで、行われるコンサル内容としても、表面的な恋愛相談、悩み相談ではなく、自分の想いをノートに書き出してみたり、自分の内なる声の言語化を行うことで、自己肯定感をあげたり、自分に自信を持つステップからしっかりとサポートされていました。
そうすることで、結婚するのが「親のため」だったり、「社会的に結婚しておきたい」といった根本動機の変革を行なっていたのです。この根底で意識されている考えを聞いた時から、ボクの中でインプレシャスさまは「婚活コンサルタント事業」という枠組みで捉えてはいけない、いや、どう考えても捉えきれないと感じていました。
何しろ、松尾さんのコンサルによって改革されるのは、「結婚観」だけでは無いからです。「失敗が怖い」「自分を出せない」「将来のビジョンが見れない」といったご自身の「人生観」をも変化させていたのです。つまり、株式会社インプレシャスにおいて松尾さまが提供していたのは、単なる恋愛相談やお見合い、マッチングではなく、自分自身や他者を含めたコミュニケーションのデザインだったわけです。このあたりは松尾さんから出てきた想いや断片的なワードを拾い上げ、丁寧に汲み上げていくことで言語化しました。
だからこそ、今回のブランディングでは、この「もう一歩深い階層」の想いや取り組みを汲み上げて、「核」とすることを意識しながらすすめていきました。
事業イメージの再定義
ヒアリングを終えた段階で、まずは事業イメージの再定義を行いました。すくなくとも「婚活コンサルタント」の枠組みでは収まりきれないその根底にある考え方をキチンと言語化しておく必要があると考えたからです。
これは株式会社インプレシャスさまのため、というのももちろんありますが、何よりここの共通言語化ができていないと、Office ioが制作するロゴの造形の方向性が定まらなかったからです。Office ioでは、ボクは言語化から、デザイナーであるhanaさんはビジュアルイメージから「本質」に同時にアプローチしていきます。そのためには、揺るぎない共通の概念が確立している必要があるわけです。
もともと松尾さんにはしっかりとした理念、概念がありました。なので、ヒアリングをした際にメモした言葉をつなぎ合わせていくことでおおよその全体像が見えてきています。あとはわかりやすい1~2行程度のコンセプトラインにする言語化の部分でした。その中で、ボクが注目したのは、松尾さんが行なっている「自己肯定感をあげる」ためのコンサル部分でした。
ここは恋愛から離れ、一人の人間として向き合っているからこそできる部分です。つまり、ずっとひっかかっていた、「単なる恋愛コンサルタントではない。」という部分をどう捉えるか考えた時に、その目線をもう一歩引き、もう少し広い視野で業務全体を捉える必要があると考えました。そこで、単なる恋愛相談ではなく、その人の古い価値観や固定観念を丁寧に取り除き、新しい自分と出会うためのお手伝いをしている人生観、幸福感の再構築をお手伝いしている姿としてとらえ直したのです。
その、古い価値観や固定観念を丁寧に取り除いたあとの、新しい自分と出会うことこそが、結婚するかどうかもふくめた自分の人生の選択であり、幸福の選択なのだと考えました。あくまで結婚は、この新しい自分の人生のなかでの選択肢の一つでしかないわけです。特に人生観、幸福感をあらためて自らの中に再構築していく流れは、現代的に言うのであれば、アップデートと呼ぶにふさわしいものだと感じました。そこで、もともとの「恋愛コンサル」としていた事業イメージをもう一歩深い部分でボクが言語化した言葉がこちらです。
「恋愛観、結婚観を入り口として、人生の幸福観をアップデートする」実際は最後の一行「人生の幸福観をアップデートする」だけでも十分でしたが、現時点では再構築を意識して、恋愛観、結婚観の入り口の部分をあえて残しています。この再定義について、松尾さんがとても深く頷き、ま喜んでいただけたことがとても嬉しかったです。
社名「Inprecious」の再定義
さて、ブランディングにあたり、次に注目したのは「Inprecious」という社名でした。これは松尾さん自らの造語で、independence(独立)のinとprecious(貴重・大切)を組み合わせています。
これだけでも十分素敵で、とても意味合い深いのですが、ボクとしてはもっとこのInに意味合いを見出せると感じていました。最初は直感でしたが、お話をうかがううちに、それは確信にかわりました。というのも、単なる恋愛コンサルではなく、その人と真摯に向き合い、その人の人生観を丁寧に改革する事業内容は、もっともっと深い部分を優しく包み上げていると感じたからです。
そのため、「Inprecious」の社名はそのままに、そこに見出される価値の再定義も行いました。正直、ロゴを制作し、名刺をつくる、というのが今回のオーダーなので事業イメージの再構築も、社名「Inprecious」の再定義も、依頼された内容ではありません。なので、ここまでやらなくてもいいといえば良いのです。
はっきり言って余計なお世話である可能性もあります。
でも、Office ioとしてはロゴをつくる、ということは、それだけ企業さまの背景を把握し、概念を共有し、コンセプトとして揺るぎないものを提案したいと思っています。その時、ヒアリングやリサーチをするなかで、もう一歩踏み込んだ提案ができるのなら、そこをさけて通ることはしません。
単なるロゴ、名刺の制作であっても、そのビジュアル造形がその企業さんの顔となり、信念、理念の具現化としてこの世に姿を表す以上、できる限りの言語化をしてから造形したい。そんな想いがあるからこそです。余談でした。さて、社名「Inprecious」の再定義について、まず「 precious」を辞書で調べてみました。
PRECIOUS…
a.〈ものが〉貴重な,高価な 【類語】 ⇒valuable
b.〈時間・経験など〉大切な,むだにできない,尊い
これはとても大切なキーワードです。松尾さんの想いがダイレクトに表現されています。この単語についてはあえて何かを追加していくのは蛇足というものだと判断しました。続いて「 precious」にかかるinについての構想です。ボクは当初にあったindependence(独立)に加えて、さらに二つの意味を追加しました。ひとつは「individual(個々の、独特の)」そしてもう一つが「 innovative(革新)」独立した一人の人間でいること。そして自身が揺るぎない個であること。さらに、常にアップデートを繰り返す、革新的であること。
これらを組み合わせて3つのinの意味としたのです。そして、それが集まることで「アイデンティティ=identity(自己)」となる、という解釈です。つまり、Inpreciousは、3つのIN(独立・自己・革新) = アイデンティティ(自己)を大切にする。自分が自分であることを大切にする企業であるということをこの社名のなかで再構築したのです。この企業の再定義をベースに、ロゴと名刺のデザインに落とし込んでいくわけですね。さて、最終的にhanaさんがビジュアル造形したロゴデザインはこちらです。
本質はなにか?
今回のヒアリングで、一番最初に気になったのが「色」でした。もともと松尾さんが使用していた株式会社インプレシャスの名刺は「ティファニーブルー」のような綺麗な青。確かにこの色も美しく、上品な印象は強かったのですが、松尾さんとしては少し迷いがあったようでした。「周囲にいろいろ意見を聞いて、最終的にこの色に決めたんです」「とても満足はしてるんです」「でも、私としては赤も好きで・・・」ボクが引っかかったのは、この最後の一言でした。
そこから仮説を立てて、本質を探りにいきます。
ティファニーブルーは周囲の勧める色であるのに対し、赤は松尾さん本人が好む色。もちろん、カラー設計をするにあたり、どちらのアプローチもありです。ですが、今回はコンセプトとして「個」であることの強さ、大切さが見えています。その本人である松尾さんが自分の「個」である赤を大切にすることは非常に大きな意味を持つと考えました。
なので、そのことをご本人にお話すると、非常に深い納得を示してくださいました。ここで、株式会社インプレシャスのカラー設計は赤に決まります。また、このやりとりから、ボクが仮設定したコピーが「私は、わたしの色でいく。」でした。個々のアイデンティティを大事にしながら、自分を大事にしながら、幸せに向かって自らの足で歩みだす。そんな光景をイメージしたものでした。
ロゴ設計
それ以外にも、松尾さんから様々なキーワードをいただきました。
つながり
日本人であること=和
今まで行ってきた婚活支援
これから手がける家族支援
つながりで社会をよりよくしていく、という想い
本当の幸せとは?
数値化できない幸せ
幸福度を高める
color your Life
油絵は塗り重ねることができる。
これらを精査し、取捨選択しつつ、提案するロゴへとしあげていきます。ボクとhanaさんで描いたラフは100個以上。その中から厳選して造形に落とし込んでいきました。
基本的にデザインの造形についてはデザイナーであるhanaさんに一任していますが、その前段階のラフ構想段階の壁打ちなどではボクもどんどんアイディアを出しながら下手くそな絵を描きます。笑逆にコンセプトを言語化するときも逆壁打ちとして、hanaさんと対話しながら言葉を探していくのがOffice io のクリエイティブ・スタイルです。なので、最後の最後のアウトプットにたどり着くまでは、何度も二人で議論や推敲を重ねるわけです。
提案A
ここからは実際に提案したアイディアをご紹介します。まずはA案です。
コンセプト:太陽
INPRECIOUSが大切にする自己とは、揺るぎないもの。そして、日本人(和)であること。その象徴としての日の丸から着想を得て、大胆にアレンジした。また、自分自身が持つ個性を一つの色として捕らえ、
自分の色で、太陽するらも塗りつぶす、強い意志を表現している。
こちらは、赤と太陽、そして色を塗り重ねていく様をモチーフとしました。打ち合わせを終えた段階で、ボクもhanaさんも真っ先にイメージしたのが太陽だったのです。
この塗りは、ioのデザイナーであるhanaさんが手動で何度も描き、100枚以上の作画の中から、ベストの造形、バランスのものを選抜しています。言うなれば、唯一無二の塗りをロゴに落とし込んだものになります。そして、このロゴと、キャッチコピーを掲載した広告イメージとして、こちらを制作しています。また、名刺イメージも添えての提案でした。
提案B
提案Aがヒアリング当時の直感に従った王道とするなら、B案はもう一歩踏み込んだ提案となりました。
と、いうのも、株式会社インプレシャスさまの展望として、事業を「婚活コンサル」だけでなく、「温かいキズナに包まれた家族をつくる」ための「家族サービス事業」まで考えられていたためです。そこで、恋愛に限らず、「人と人との繋がり」に着目したのがこちらのB案でした。
コンセプト:結い(ゆい)
INPRECIOUSが大切にする「自己」は、他者との結びつきから生まれる。そして、INPRECIOUSの基礎となる3つの「I」を筆記体で表記すると、それはまるで糸のようにも見える。そこで、「赤い糸」を恋愛関係に限らず、私たちの人間関係を適切に結びつける最適なイメージと捉え、つながり、また自由に解ける様を抽象化。「I」を「私」と「愛」のダブルミーニングで表現した。
モチーフは、わたしを示す「 I 」=Inpreciousの「 I 」です。そのイニシャルを筆記体にすることから糸として、結び目として落とし込みました。
この造形もhanaさんが手書きで何度も描き、もっともバランスがよく、また美しいものをベースに最終的にはデジタル加工で整えています。また、このロゴと、キャッチコピーを掲載した広告イメージとして、こちらを制作しています。名刺イメージの提案はこちら。
最終確定
最終的にはB案が採用されました。そこからさらに細かいブラッシュアップを重ねたものが、こちらのロゴになります。どちらもすごく良いと悩んでいただいての結果だったのですが、やはりロゴの中に「未来へのビジョン」が見えた部分がB案決定の理由でした。
恋愛としての人との繋がりではなく、あくまで人と人。そして、その人も「自分らしさ」を大切にした揺るぎない個人であること。このあたりがロゴの設計にも十分に含まれたのではないかと思います。そして、最終納品した名刺デザインはこんな感じになりました。名前面は潔い十字の赤いライン。これはプレゼントのリボンのようにも見えます。
裏面にはロゴを大きくあしらい、結び目を中央に。下部に添えたのはキャッチコピーである、「 I 」を解き放て。コンセプトからアウトプットまで、一貫して整ったクリエイティブに落とし込むことができたのではないかと思います。このたびは発注、ありがとうございました。