今回ご紹介するのはoffice ioとして年明けから対応させていただきました「いずみの編集室」さまでのクリエイティブ制作案件についてです。
この案件の内容は、実はSchooさまのオンライン講義でも題材として取り上げさせていただいたもの。
コンセプトの設計からビジュアル展開まで、クリエイティブをどう生み出してきたのかを解説したいと思います。
肩書きをデザインする
今回ご依頼いただいたのは、大手出版社からライターとして独立したばかりの「あさのみ」さまでした。
すでに「いずみのへんしゅうしつ」という屋号で活動を開始していました。
あさのみさんからの依頼内容としては、肩書き、ロゴ、パンフレットをデザインしてほしいの3つ。
パンフレットは4月に開催されるクリエイターエキスポ(今回は延期が決定)で使用したいというもの。
そのパンフに合わせて、肩書きの再定義を行い、またそれに合わせたロゴ変更のデザインをお願いしたいというものです。
そこで、まずは肩書きをどう設計したのかを解説していきます。
まず、依頼をいただいた時点でのあさのみさんの名刺に書かれた肩書きは「ライター/エディター」というものでした。
シンプルですし、わかりやすいので、この肩書きそのものがダメだということはありません。
ですが、あさのみさん自身としては、自分の業務内容としてのギャップを感じていました。
そのギャップとそこからの解決課題をまとめると以下の3点です。
・「ライター」という肩書きだと対応可能な業務内容を表しきれない。
・しかし、ディレクターやプロデューサーだとイメージがズレてしまう。
・伝えたいのは企画提案から取材、構成、記事執筆までワンストップで対応可能なこと。
まずはこのギャップを埋め、自らの業務内容を適切に表す肩書きに変えたいという部分が大きなポイントとなりました。
肩書きの重要性
少し余談になりますが、肩書きは大事です。
それこそサラリーマンであっても、自分が何者かということは「役職」以外の肩書きで名乗れた方がいい、とボクは常々思っています。
なぜなら、それこそが自分の強みを分析し、唯一無二の武器に出来る可能性がある能力のアピールだからですね。
だからと言って、無理して新しい「プロ無職」とか「プロ奢られヤー」みたいな奇抜な肩書きを作る必要はありません。
もちろん、特徴的な肩書きはみんなに覚えてもらいやすいし、そのメリットは大きいです。ですが、ここで大事なのは、自分の特技や特徴を的確に表せているかどうかの方です。
例えば、いつでも笑顔を絶やさない営業に自信があるのなら「スマイル満点営業王」を名乗ってもいいわけです。
経理が得意で、しかも丁寧迅速、ミスがないことを売りにするなら「完全無欠の経理」を名乗ることもできます。
要は自分の武器をどう見せたいか、どうみせるべきか、が肩書きを考える上での大事なことなんですね。
これはフリーランスであれば尚更大事にしたい考えではないかと思います。
ご提案
さて、今回のあさのみさんの肩書きについて、ボクの提案はこちらでした。
いずみの編集室長
シンプルです。
ですが、この短い言葉の中で、必要としている印象をしっかり与えることができると考えました。
ねらいとしては、簡単にまとめると以下の感じになります。
・編集室長とすることで、企画から執筆納品までの業務規模に奥行きと幅を持たせる。
・実際にひとりでは対応出来ない規模感の業務内容はチームを編成して対応ができる。
・クライアントさんに業務全体の管理進行ができる信頼と安心のイメージを提供する。
実際にあさのみさんはライターだけでなく、その前後の工程すべてにおいて対応できるだけのスキルとキャリアがあり、しかも自分自身は「企画提案から携わりたい」という思いがありました。
企業担当者が新しい連載企画をどうしようか悩んでいるときに、「企画もできるライターです」とアピールするのと、「編集室長として、企画を提案から執筆まで管理進行できます」と言いう印象を与えられた時、どちらの人に頼むでしょうか?
その時に、「編集室」という奥行きは必ず武器になると確信しています。
また、当初は「いずみのへんしゅうしつ」とすべてひらがなで名乗っていた屋号にいても、「いずみの編集室」と編集室を漢字に変えていただく提案をしました。
すべてひらがなだと可読性というか、一瞬での認識力が少し落ちます。
ターゲットと言うか、一緒にお仕事をされるのは企業の方であることを考慮すると、子供らしい可愛らしい読み物が得意な印象や雰囲気はもっと削っても理解いただけるだろうと言う判断ですね。
また、「編集長」ではなく、「編集室長」と、あえて「室」をつけたところも戦略です。
やはり「編集長」だとちょっと偉そうと言うか、厳しい印象がないわけではありません。
それに対して「室長」とすることで、自分の「部屋」と言うか、お気に入りのフィールドとメンバーをちゃんと管理する優しさやコンパクトさが付加できると考えたわけです。
ここはニュアンスなのですが、あさのみさんとしては「いいですね!私の好みの部屋を作っていくイメージ!」と言うことで快諾いただきました。
いずみの編集室 編集室長 あさのみ ゆき
とてもあさのみさんらしく、また事業イメージをきちんとお伝えできる肩書きになったのではないかと思います。
ロゴをデザインする
この肩書きと業務定義をベースに、ロゴのデザインを行いました。
デザインしたのはoffice io のCEOであり、デザイナーのhanaです。
コンセプトメイキングの思考過程についてはまた改めて詳細記事を書きたいと思ってますので、今回は簡単に。
最終的に用意したコンセプトは「宝の詰まったおもちゃ箱。」でした。
とても可愛らしく、また発想を刺激するようなロゴにできたのではないかと思います。
何をモチーフにするか
さて、ロゴをデザインするときに大切な考え方として、「何をモチーフにするか」というのがあります。
つまり、何をコンセプトにその造形を仕上げるか、ということですね。
例えばAppleは文字のままにリンゴをマークにしてます。
マクドナルドはMです。
これはわかりやすい。
では、ナイキはどうでしょう?
ナイキのロゴマークは誰もが知るところですが、あのマークが「スウッシュ」と呼ばれ、勝利の女神ニケの彫像の翼をモチーフにしていることまで知ってる人はどれくらいいるでしょうか?
また、スターバックスはどうでしょう?
緑の丸の中に女性のイラストがロゴです。
これはギリシャ神話に登場するセイレーン(人魚)というモチーフにしています。
一見すると、その企業にダイレクトにつながるモチーフではないように思えます。
ですが、その背景には緻密に設計された企業理念があるわけですね。
(今回はそのルーツの説明は割愛します)
ここで大事なのは、見た目や音の響きだけでなく、そのブランドの本質を具現化するロゴである方が良い場合もあるということです。
いずみの編集室の場合
さて、いずみの編集室の場合、何をモチーフにするか、と言うところはちょっと頭を使いました。
まず、いずみの編集室にはすでに使っていたロゴマークがあったからです。
そのマークは「いずみ」をモチーフとした可愛らしいものでした。
そもそも、「いずみの」と言う言葉はあさのみさんの中で、「心の泉を大切にしたい」と言う思いから名付けられていました。
この言葉自体はとても素晴らしく、また意味も意義もあるものでした。
なので、そのままそのモチーフを踏襲すると言う考え方もあったわけです。
実際にoffice io のCEOであり、デザイナーであるhanaさんには、泉をモチーフにしたロゴについてもデザインをしてもらっています。
ですが、ボクらの中ではイマイチしっくり来ていませんでした。
なので、まずは何がしっくり来ていないのか、の言語化から始めます。
まず、そもそも使っていたロゴではなく、新たにロゴをデザインしてほしいと言うオーダーに立ち返りました。
これは推測ですが、現時点でのロゴでは、「何かが足りない」もしくは「何かを表しきれていない」と言った可能性が高い。
だからこそ新しいロゴを求めている。と推測します。
では、何が足りないのか?という部分ですが、おそらく泉はあくまで「内に秘めた想い」であり、対外的に表したいのはもっと自分の能力やスキルに特化したイメージなのでは?
という仮説を立てました。
というのも、前回の肩書きをデザインする。のオーダーにもあった通り、仕事をしていく上での自分のスキル、能力、対応範囲などを表に出していきたいというのがあさのみさんの想いの根底にある可能性が高かったからです。
そこで、泉をモチーフにしたロゴ案も考えつつ、もう一方であさのみさんの仕事スキルの根幹である「着眼点と発想」をどう表現するか、という部分に着目した別案を考えることにしたわけです。
「着眼点と発想」をカタチにする
では、この着眼点と発想をどうカタチにするか、という部分ですが、ポイントとなったのが「もともと子供向けの教育、知育雑誌」の企画・ライティングをあさのみさんが行っていたという部分でした。
子供にわかりやすく伝えるためにはどうするか?
それを考えるためには子供のように豊かな発想が必要になります。
子供は発想の天才です。
どんぐりを宝石に見立てたり、ビールの王冠をバッジにして秘密結社を作ったり。
そんな子供のおもちゃ箱の中には、自分にとっての「宝物」が詰め込まれています。
そこで、コンセプトを「宝の詰まったおもちゃ箱」とし、発想の柔軟さと多様性を立体的なパズルのイメージに落とし込んだのです。
コンセプト
子どもは発想の天才だ。
大人にとってはなんでもないモノでも、子どもにとっては宝物になる。
それは柔軟な思考と発想があるからこそ。
だから、子どものおもちゃ箱にはワクワクする宝物がたくさん詰まってる。
子供向け雑誌からスタートし、業務範囲を拡大中の「いずみの編集室」の原点も、実はこの発想。
だからこそ、企画・提案を大切にし、
新しい切り口や見せ方、読んだ人が面白いと思える内容にこだわり続けている。
ロゴでは、そのこだわりをシンプルなオブジェクトを使って「IZUMI」に落とし込んで表現した。
このオブジェクトは、組み合わせ次第で無限の造形を表現できる図形パズル(積み木)のようなもの。
それはつまり、いずみの編集室のアイディア、切り口、企画案が無限であり、
常にクライアントさんにとっての「宝物」として、ワクワクを提案し続けるイメージにつながっている。
この案と、泉モチーフの案と、それぞれを持ってあさのみさんにプレゼンしたところ、直感的にこのパズル案を気に入ってくださり、最終確定案としてブラッシュアップすることになりました。
これは、本人が必要としている言葉にならないイメージや発信をうまく掬い上げ、カタチにできた結果ではないかなと思っています。
このコンセプトからhanaさんのイメージで造形したロゴが今回採用されたものになります。
数字をデザインする
さて、ロゴの納品前にもう一つのアイディアが浮かびました。
それが、ロゴのモチーフを使って数字をデザインする、というもの。
企画書などに使ってほしいという想いもありましたが、何よりこのロゴの多様性と発想の豊かさを示したかった部分です。
最後に、このロゴを使用した「いずみの編集室」の広告イメージを作成しました。
こうして納品したロゴデータについて、大変喜んでいただきました。
発注、ありがとうございました。